和子 評伝(十四)   評論をまじえた伝記
 

 

 
     
     
 

一四 梅花円熟

 
     
    平成七年、梅花の主題を深めながら八一歳を迎えた和子は、一九九五年女流画家展  
  に『紅梅』を発表。五〇回春の院展には、白梅の一枝を品格ある色調で描いた『馨る』  
  を発表しました。同年一六回日本の美・現代女流展にも出品したこの作品は、上野の森  
  美術館に所蔵されました。八〇回院展には、寒中の霜のなかで凛と咲く『寒中紅梅』  
  (式年遷宮記念神宮美術館)を発表。どこにでもあるような景色を、あるがままに描き  
  たいと思い、自宅の前にある梅林から取材したと和子は語っています。  
   平成八年は、一九九六年女流画展に『梅樹』を、五一回春の院展には『寒空に咲きそ  
  む』を発表。八一回院展には、『夜明け』を発表しました。自然のなかでの象徴性につ  
  いて考えながら、梅をより生き生きとみせるために周囲は幻想的に描き、自然のリズム  
  に併せた嘘と誠を描いたと述べています。生命感のある白梅と枯れ木の梅による、不思  
  議な空気感の漂うこの作品は、富山県小杉町(現射水市)に収蔵されています。  
     
 


第八十一回院展『夜明け』

 
     
  同年、井原市立田中美術館で開催された日本美術院の華展(女流同人五人展)に、和子  
  は小倉遊亀、片岡球子、庄司福、岡本彌壽子とともに名を連ね、『初秋』『榕樹』『閑  
  庭』『暮色白梅』『寒月』を出品。一七回日本の美・現代女流美術展には、春季展に発  
  表した『夜空に咲きそむ』を出品します。この年は、銀座松屋で「現代作家デッサン  
  シリーズ 郷倉和子展」(朝日新聞社主催)を開催しました。  
   平成九年、一九九七年女流画展に『紅梅』を出品。五二回春の院展には闇に馥郁と漂  
  う梅香をとらえた『暗香浮動』を発表しました。八二回院展には春の大気のなか、建物  
  の構築感が梅枝の曲線と溶けあう『うららか』を描きました。和子が屋根瓦と梅を何度  
  描いても飽きなかったのは、生活に根ざした物を描くことが心の安定に通じたからだ  
  と、自ら語っています。この年は世田谷区文化功労賞を受賞しました。一八回日本の  
  美・現代女流美術展に『暗香浮動』(五二回春の院展出品作)を出品。和子は日本芸術  
  院会員に推挙されました。北日本新聞(一一月二二日朝刊)には、日本芸術院新会員が  
  掲載されています。  
   一九九八年女流画展に『白梅』を発表した平成一〇年、春の院展には、夜空を舞うよ  
  うな白梅を描いた『薫韻』を発表。「屋根瓦と白梅の競演とでもいいましょうか。私の  
  大好きな構図です」と和子は述べています。八三回院展には、自然のなかに佇む古民家  
  の庭先に咲く白梅を、万葉の世界へ引き込まれるような気持で描いた『大和路の梅』  
  (北日本新聞社蔵)を発表。飛鳥を取材する機会に恵まれ、そこで目にした風景こそ、  
  自分の探していた景色だと和子は感じ、以降数度この地を訪れることになります。花鳥  
  を描いてきた和子にとって風景画は難しく、ただ眺めている時間の方が多かったと述べ  
  ながらも、骨格のある家屋敷に繊細な白梅を描いた傑作となりました。  
     
 


第八十三回院展『大和路の梅』

 
     
  一一月には大本山増上寺会館大広間に天井絵を揮豪し、一九回日本の美・現代女流画展  
  に『春陽』を発表しています。『我が宿の梅』は、奈良県万葉文化館に収蔵されまし  
  た。  
     
 

美術エッセースト小笠原洋子

 
 

第十四回評伝(2010年 2月16日発行)

 
     
     
Back