和子 評伝(十六)   評論をまじえた伝記
 

 

 
     
     
 

一六 郷倉和子の現在

 
     
   平成一六年は、六月に新装オープンした韮山温泉病院のために、和子は花鳥画の淡彩画  
  四四点を描き上げました。病室を飾るこれらの作品群は、平成一八年以降、富山県射水市  
  に所有権が移されています。同年三岸節子記念館にて「郷倉和子・三岸節子展」を開催。  
  八九回院展には、白梅樹下の雀たちを四曲半双屏風に描いた『和やかな早春』を出品しま  
  した。また高島屋の依頼で、正月飾りの扇に『富岳紅白梅』を描きました。  
   六〇回春の院展に、梅林の二人連れを描いた『真冬の春』を出品した平成一七年、九〇  
  回を迎えた院展には、四曲半双屏風『爽春の朝』を出品しました。瓦屋根とその上の梅枝  
  は、和子が描き慣れた構図ですが、とくに苦心したという空間描写から、はりつめた気品  
  が感じられる作品です。  
    平成一八年、名誉市民となった富山県射水市に、和子は『うららか』(八二回院展出  
  品作・屏風)を寄贈しました。北日本新聞(三月八日朝刊)には、寄贈の式典に出席でき  
  なかった和子のもとを射水市長が訪れ、目録が交わされたことが報道されました。同記事  
  には寄贈作品の一般公開も告知されています。この年の六一回春の院展には、水戸の偕楽  
  園に取材した、梅園に家族連れを配した『好望』を発表。九一回院展にはおしどりを描い  
  た『水辺の春光』を発表しました。  
   平成一九年は、六二回春の院展に、如来像に白梅を添えた『献花』を出品し、九二回院  
  展には、おしどりをモチーフにした『水辺の春光 二』を発表しました。またこの年は、  
  東美特別展「郷倉和子・新作展」に出品する、梅をテーマにした小品一〇点に着手し、九  
  月には、富山大和百貨店新装開店を記念した「郷倉千靱・和子展」に、五年前から描きた  
  めた小品四〇点を出品するなど、衰えを知らない精力的な制作活動を展開しました。  
   平成二〇年は、三越の小品展に出品。六三回春の院展には、心の如来像に再び挑戦し、  
  『花の精㈡』を発表しました。高峰会には『春日こもれび』を出品。九三回院展には『水  
  辺の春光 三』を発表しました。  
   平成二一年、六四回春の院展に『花の精㈢』を発表。九四回院展には六曲半双屏風『遊  
  想山岳』を出品しました。一一月には、三越日本橋本店と仙台店で「郷倉和子日本画展」  
  が開催され、梅、菊、牡丹や鳥、富士山などの新作と、近年の代表作品二〇点が会場を飾  
  りました。  
     
 


第94回院展「遊想山岳」

 
     
     
     
 

美術エッセースト小笠原洋子

 
 

第十六回評伝(2010年 8月16日発行)

 
     
     
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