郷倉和子の現況 8回
 
 10月から和子は富士山に梅を配した構図の試作に専念していました。 富士山を描く度
に「易しくて難しいから深い」と口癖のように言い続けていた和子がその富士山に梅を添
えようとの企てです。「富士山だけで私らしさを表現するにはまだ力不足」ということな
のでしょう。試作は10点以上に及びましたがどれも納得できず没。富士山と梅を調 和さ
せるためにはどうしたら良いのでしょう。思考錯誤の末、たどり付いた境地は必然性だけ
でも創造性だけでも描けぬ世界のようでした。しかも両方の異なる性質を頭の中で整理し、神わざとしか思えないような趣を作り出さなければ富士山に梅を添えることは出来ないと考えたようです。
最近の和子の口ぐせは「絵は良く考えなければいけない」と よく言っています。
和子の飽くなき挑戦がどこまで続くのでしょうか。12月に入り例年より暖冬との予報が
外れ寒い日々が続き庭の梅の蕾も一向に膨らんできそうにありません。和子は画室
の窓ガラス越しに庭の梅を眺めて考え込む日々が多かったようです。
 

旭日晴天
 
 大晦日には昨年結婚した孫か゛嫁さんと共に北海道から来てくれ、元旦は天気にも恵ま
れ大家族で楽しいひと時を過ごしていました。一月の中旬には大寒波が幾度か押し寄せ、
一月の中旬には自宅の白梅が2輪咲いただけで他の蕾は一向に開く気配なく暫く時の
経過を待たねばなりませんでした。2月中旬に梅が一挙に花を付けたため2部咲き3部
咲き4部咲き5部咲きを楽しむ和子にとっては物足りなかったようで す。それでも午前
中の光のなかで庭の梅を見物したりスケッチをしていました。梅の花が散り 10日後に
は桜が咲き始め桜も梅と同様にあっという間に満開。日本の季節感に味わいがなくなっ
て来ていると和子は思っているようです。
 

写生をする和子

写生をする和子
 
 今年の初仕事は三越の小品展の6号、庭の飛び石に遊ぶ小雀に紅白梅 を添えた図柄。
「今までの花鳥画とは少し赴きの異なったものが出来た」と和子は満足そうでした。小品
が出来ると休む暇なく、春の院展の出品画の制作に入りました。タイトル「花の精」とは
どんな意味なのだろうか?和子に聞いても答えてくれない。一昨年の春の院展にはタイト
ルが「献花」とあるが、同じような組合わせの図柄だが、イメージが異なっているように思える。
今後の展開が楽しみです。
 

花の精
 
 4月に入り一息ついた和子は新緑が深まりを増す庭の木々を眺めながら「美しいものを
美しく描くには自分の心が美しくならなければとても描けないね」ともらしていました。
 
 
 
 
第8回 2008年4月25日発行
 
 
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