郷倉和子の現況 第1回
 
和子にとってお正月から春先にかけては忙しい季節です。お正月が過ぎ、寒中に入ると富
士山の取材に出かけます。今年は富士川の近くから取材をしました。
 
 
富士山を取材して10年以上になりますが取材する度に「難しいね」と必ずもらします。素
人の私からみれば対象物が動くわけでないし鮮明に見えるのだから描くことは作家に取っ
てそれほど難しいとは思えないのですが。
かつて富士山麓にアトリエをお持ちになっていた日本画家・加倉井和夫先生が「富士山を
間近に見ながら生活していると富士山の存在が敬虔で描けるものではない」と記述してい
た事を思い出します。
 
 
和子も同じような心境になるのでしょうか。それでも昨年から小品に富士山を描き始めて
います。富士山も梅花と同様に生涯描き続けるのでしょう。
富士山の取材が一段落すると次は梅花の取材です。二部咲きの梅はスケッチしますが、そ
れ以上咲いている梅はみて楽しんでいるようです。そして美しい姿をしている梅樹は、必
ずと言って良いほど360度のあらゆる方向から取材します。
 
 
「梅は一番寒い時に身を細らせてまで花を咲かせるているからね」と言いながら梅樹の表
皮を手でふれる事しばしばです。母親として梅を捕らえているのかもしれません。
梅の時期が終わり本格的な春がくるまで和子は今年取材したものの中から新しい構図の試
作に専念する日々が続きます。
 
第1回 2004年4月10日発行

 

 

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