富山の文化的風土2 (美術と料理に見る富山人気質)  
     
  安井恒夫(五万石社長)  
     
   富山市内はもとより東京にも支店や関連店を多数展開する、割烹・五万石。JR富山  
  駅近くにある五万石本店の各客室には、日本画など様々な美術品が飾られている。同  
  割烹の経営者で、富山の食材を大切にする料理人である安井恒夫さんは県内でも屈指  
  の美術コレクターとしても知られる。コレクションには、日本画の郷倉千靱、和子、  
  下田義寛、板画の棟方志功、漆芸の尾長保等、富山出身や縁深い作家の作品がやはり  
  多い。そんな料理人と美術との関係を、まずはこう切り出す。  
   「料理も美術品も、ひとを楽しませるもの。そして料理屋はその最高のステージで  
  なければなりません。そこで、料理とともに、各部屋に美術品を飾って、お客さんに  
  楽しんでもらいたいという気持ちが、第一にあるんです。」  
   その場合、料理にしても美術にしても、大切なのは生活する風土や人間の気質に マ  
  ッチすることだ、と。  
   「富山は裏日本の田舎ですから、富山の人々は大作を好む。そして絵柄や色彩も 華  
  やかでダイナミックなものでなければならない。そんな絵をみると、何か豊かで、得  
  をしたような、幸せな気持ちになるんです。例えば、地元出身の日本画家の大家・郷  
  倉千靱の作品には、何より”華やかさ”というものが根本にあります。」  
   そんななかで、いま安井さんが一押しなのが、水墨画家・篁牛人(1901〜84  
  )だ。平成元年富山市の市制100周年を記念して、富山市民俗民芸村内に篁牛人記  
  念美術館が開館するなど、地元では再評価の動きが高まっている。「乾いた渇筆の 墨  
  によるダイナミックな表現が何より富山という風土を反映したものだ」と、安井さん  
  は言う。そうして、安井さんは、テレビ東京から依頼を受けて、同局の人気番組「な  
  んでも鑑定団」に、自信のコレクションのなかから篁牛人の大作(230×300  
  p)を出したこともある。  
   それに関して、「『富山に篁牛人あり!』ということを日本全国の人々に知ってほ  
  しかった」さらに「牛人の水墨の枯れた感じの中には、パッとした明るさがある。気  
  候的に暗くじめじめとした気候の多い富山の人々にとって、明るさへの希求というも  
  のは大きい」と。  
   そして、そういった生活・風土に根ざした感性が、料理にも反映しているという。  
   「富山には日常生活において、何でもおいしく食べようという知恵がある。まず、  
  富山の人は、あらゆる食材を捨てずに、その総てを食べつくす。その代表が冬の魚の  
  王様である”鰤”。寒鰤の刺身はもとより、塩焼き、照り焼き、蕪ずし、アラと大根  
  を気長に煮込んだ鰤大根、フト(胃袋)鱠、内臓を炊き、酢を炊き合わせたアブラ鱠  
  等。魚の王様のありとあらゆる部分を捨てることなく、様々な工夫を凝らして、食べ  
  つくす」  
   とにかく、新鮮!大きい!安い!というのが、富山県人が大切にする生活感覚。  
  富山の文化的風土も、まさにそういう価値観を基に育まれてきたと言っていい。  
         
         
         
     

文責:美術ジャーナリスト藤田一人

 
     

第2回「富山の文化的風土」2005年1月31日発行

 
         
         
 
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